Love is ID〜鏡の城〜

向日葵が見つめるなかで許されることない恋に堕ちたあの日・・・。この恋の結末を知っていても僕は君しか愛せない。

第4章 雨 〜後編〜

聞こえてくるのは、窓を打ちつける雨の音と遠雷の音

そして俺と瀬名の吐息だけ・・・

激しい雷の影響で、暗闇に取り残されたふたり

お互いの表情さえもわからない中で、温もりと鼓動だけを感じていた。

ずっと震えていた、瀬名の体がしだいに落ち着きはじめて

少しずつ、暗闇に慣れ始めた俺の目に瀬名が映り

言葉もないまま見つめあい、そして自然に唇が重なった。


小鳥がついばむように、軽く触れ合った唇が

もっと深い場所を求めて、熱いキスへと変わる。

流されそうになる自分を抑えられなくなったとき

体から鈍い振動を感じた。
バイブ・・・。

仕事に夢中になると、時間の感覚がなくなる俺が

愛流との待ち合わせの時間に遅れないようにと

セットしておいたもの


『・・・どうしたの?電話?』

「違う電話じゃない。俺・・・この後予定があって
 その時間を忘れないように、携帯にセットしてたんだ」

『もしかして、彼女との約束だった?』

「いや、彼女とかではないけど、大切な友達なんだ」

『そう大切な・・・。じゃあ待たせちゃ悪いから、早く行ってあげて」

「瀬名さんは?」

『私もここに一人でいるのも寂しいし、一緒に出ることにするわ
 引き止めちゃってごめんなさいね。』

「引き止めたって・・・そんな風に、俺思ってない」

『ありがとう。渡辺君って優しいのね。
 好きになるのが、あなたみたいな人だったらよかったのに・・・』


寂しそうな瞳で遠くを見つめて呟きながら

乱れた髪を直すように、まとめられた髪を解く

瀬名の背中を埋め尽くすように、髪がこぼれた瞬間

俺の中で、あの日の女性と瀬名が重なった。

長い髪と寂しさを漂わせた瞳・・・、そして雨

「あの時の・・・」

『えっ・・・何?』

「この前の雨の日、俺が傘を貸したのって・・・もしかして瀬名さん?」

俺の口から出た言葉に、瀬名は微笑む

『やっと気がついてくれた(笑)
 私は、あのあとすぐに気がついたのに』

「俺・・・あんまり人の顔って見てないし、覚えられへんからな・・・
 でもあの日、会社で見る瀬名さんの感じと違ったし
 たぶん俺じゃなくても、わからへんかったと思う。」

解かれた髪を、キレイにまとめて瀬名は

『女はね・・・いくつもの顔を持ってるの。
 きっとあの日の私も、いまココにいる私も、違う顔してるはずよ
 そして、たくさんの顔を持ったまま生きていくの。愛されるためにね。
 こんな話、どうでもいいわね(笑)
 それより渡辺君、ゆっくりしてていいの?待ち合わせに遅れるんじゃない?』

「やべぇ、間に合わなくなる。 じゃあ、俺先に行くから」

急ぐようにドアに手をかけながら、俺は振り向いた。

「ココで見たこと、絶対に誰にも言わないから」

その言葉に、瀬名は微笑みながら頷き、

『きっとまた、ここで逢えると思うわ』そう囁いた。


会社を出たときは、すでに待ち合わせの時間を過ぎていて

俺は、雨の中を必死に走った。

駅について、息を切らしながら人混みの中を探す。

愛流の姿は見当たらない。

もしかしたら、先に店に行ったのかもしれない。

それとも帰った・・・。


いろんな考えが頭の中に浮かびながらも、必死で探していると

ホームの出口近くに、立っている愛流を見つけた。

「ハァハァ・・・ご、ごめ・・・ん。待った・・・やろ・・」

息を切らしながら、愛流の傍に行くと

そんな俺を見て、優しく笑った。

『よかった。連絡ないから、どっかで事故とかにあったんじゃないかって心配で・・・
 私待ち合わせしてるくせに、渡辺くんの連絡先も知らないから、
 どうしょうもなくて・・・。 でもよかった。何もなくて、こうして逢えて』


「ごめん。本当にごめんな。
 俺がちゃんと来てたら、不安な気持ちにさせることもなかったよな」

『違う、渡辺君のせいじゃないの。私が勝手に約束決めたしごめんね。
 連絡先ぐらいメールに書いておけばよかったのに、なんか浮かれちゃてて
 そんなことも忘れてて・・・』

「いや、ホンマに俺が悪いねん。
 もっと早く会社でればよかったし、ちゃんと連絡先だって聞けばよかったんだし
 雨ひどく降ってたから、寒かったやろ?ホンマにごめんな」

『やだ、さっきからお互いに誤ってばっかりだね(笑)
 渡辺君だって忙しかったんだし仕方ないよ。だからふたりとも悪かったってことにしょう。
 ねっ、それでいいでしょ』

そう言って笑顔を作る。

その笑顔とは裏腹に、寒さで赤くなった頬や指先が

俺の胸に、痛いくらいに鋭く刺さった。

遅れたのは、忙しかったからじゃないのに・・・。

『渡辺君、どうかしたの?』

「いや、なんもない。それより予約してた店、まだ大丈夫なんか?」

『うん。ちょっと遅れるかもって、連絡しといたから
 なんだか安心したら、すごくお腹がすいてきちゃった。
 早く暖かくて、美味しい料理を食べよう』

「そやな、早くいって食べようや」

店に向かって歩きだした瞬間、俺の横を通り過ぎた女性の香りが

暗闇で感じた瀬名を思い出させた。

俺を心配して寒い中、待っていてくれた愛流。

そんな愛流の優しさに触れながらも俺は

まるで、愛という名の籠の中へ閉じ込められたように

瀬名を求めはじめていた。












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