Love is ID〜鏡の城〜

向日葵が見つめるなかで許されることない恋に堕ちたあの日・・・。この恋の結末を知っていても僕は君しか愛せない。

夏生に会える喜びを抱いて、俺は病院を訪れた。

前回と違って、明るい時間に訪れることで

細心の注意を払う必要があった俺は辺りを見渡して

階段へと急ぎ足で向かい

誰にも気づかれることなく、5階へと駆け上った。


夏生の病室に近づくにつれて、人の動きが多くなり慌しくなる。


「先生。どこにもいません。」

『患者が行きそうな場所に心あたりは?』

「みんなで手分けして探してるんですけど、どこも岡野さんの姿がなくて」


岡野…いま岡野って…。


『ご主人は?連絡はしてるんだろう』


「朝の時点ですぐに連絡をしてるので、もうこちらにこられると思います。」


『あまり状態がよくない時だ。ご主人が来たら心あたりをすべて
 当たってもらって!あと都内の病院に運ばれる可能性もあるから
 そっちのほうにも連絡もしておくように』


夏生がいない・・・。俺は近くの看護士さんへ声をかけた。
「すみません。岡野さんのお見舞いに来たんですけど…」


『岡野さんの知り合いの方? 
彼女姿が見えなくなっていまみんなで探してるの
あなたもどこか行きそうな場所に心当たりないかしら?』


「いつからなんですか!彼女はいつから姿が」


『わからないのよ。昨日の消灯のときには姿があったの。
 けれど今朝にはベットは空になっていて・・・。
 あっ、岡野さん、待ってたんですよ。』


看護士さんの言葉に、俺は振り返った。

そこには、蒼白な顔色をした男性が立っていた。


『妻は、夏生は見つかりましたか?』


『いえ、まだなんです。ご主人が来たら心当たりを…』


『僕のほうはすべて探しました。妻は記憶がないのに、どこに行ったと
 言うんですか!知り合いすら覚えていないのに…』


『そうですか・・・。では警察のほうにも連絡をいれますから
 ご主人も引き続き心当たりを探してくさい。それと気を確かにもってくださいね』


立ち去る看護士さんに、頭を深々と下げる男性

これが夏生の旦那…。

その男性が顔をあげると同時に、俺達は目があった。


『渡部さんですよね?』


「はい。そうです。
 この前は、連絡ありがとうございました。」


俺は、頭をさげた。


『君のためにしたわけじゃない。できるなら最後まで会わせたくなかった。
 でも妻の…夏生のことを思うとこうせすにいられなかった。
 それなのに、夏生はどこに行ってしまったんだ。君は夏生が行きそうな
 場所に心当たりはないのか?もしあるなら教えてくれ、時間がないんだ』


「時間がないって、岡野さんどういうことですか?
 夏生の容態は良くなっているじゃないんですか?」


俺の言葉に黙り込む。

でもその表情は、あきらかに何かを隠していることがわかる。


「岡野さん、教えてください。お願いします。」


『…君には関係ないことだ』


「関係ないという気持ちもわかります。
 じゃあどうして俺と夏生さんを逢わせてくれたんですか?
 あれほどまでに頑なに拒んでいたのに…。
 正直俺は…ここにくるまで、何かあるんじゃないかとあなたのことを疑ってました。
 でも今は違う。岡野さんあなたは夏生さんのために、俺に逢わせようとしてくれた。
 その気持ちは嘘じゃない。言いたくない気持ちは僕にだってわかります。でも教えてください。
 夏生さんの容態は良くないんですか?時間がないってそういう意味なんですか!」


冷たくて重い空気が流れる。

俺の言葉に黙り込む彼の姿を見つめる。


『…夏生は…』 

閉ざされていた彼の口から、聞き取れないほどの小さな声が漏れる。

俺はその声を拾い集めるように、耳を澄ました。




俺の脳裏には、岡野さんから聞いた言葉が離れない。

夏生が…夏生の命が・・・・。信じられなかった。


『手術さえ成功すれば助かる可能性があるんだ。先生も難しい手術だけど
 全力をつくしてくれる。あとは夏生が生きたいと願う強い心が必要なんだ。
 俺は、悔しいけどそれを夏生に与えてやることができない。

 だから君と逢わせることで、夏生が少しでもその気持ちを取り戻してくれるならと…
 一刻だって、早く手術をさせたいんだ。だから夏生を探してくれ。
 そして、手術を受けさせてほしい。』


頼みたくなどないはずの俺に…岡野さんの気持ちを思うと胸が痛かった。

今俺にできることは、一刻も早く夏生を探し出すこと

そして手術を受けさせること。必ず生きる希望を与えること。


でも夏生は何処に…。


俺の頭の中にひとつの場所が浮かんだ。

記憶がない夏生が行けるはずはないけど

でも俺にはそこしか浮かばなかった。


「きっとそこに夏生はいる」自分の心を信じて病院を飛び出した。




「お客さん、この辺りはなにもないよ。本当にここでいいの?」


『はい。ここで大丈夫です。
 いろいろ親切にありがとうございました。』


「いやびっくりしたよ。いきなり行き先はわからないけど
 向日葵が一面に咲いてる教会を探してるといわれたときは」


『ごめんなさい。私場所がわからなくて…。でももしかしたら
 どなたかが知ってるかもしれないと思って』


「まぁ、あんまり知ってる人は少ないけど、結構穴場なんだよね。
 夏は向日葵が一面に咲いてるけど、冬は銀世界の中に教会があって
 厳かな感じだからね」


『実は私、ここに来たことがあるかどうかもわからなかったんです。
 でも今ならわかります。私はこの場所に来たことがあるって』


「そっか、お姉さんにとって思い出が深い場所なんだろうね」


『えっ?』


「いや、よくわからないけど、お姉さんの顔見てたらさ、そんな気がしたんだよ。
 何か懐かしくて、それでいて大切なものに出会ったような表情が…」


『そうかもしれません。私にとって大切な場所』


「でもこの辺りは暗くなるのが早いし、ほとんど車も通らなくなるし
 お姉さん一人で大丈夫?」


『大丈夫です。きっと来てくれると思うから』


「あぁ〜、彼氏と待ち合わせしてるんだね。そっかそっか。それなら安心だ。
 いらない心配してごめんね。」


『そんなことないです。ありがとうございます。』


お礼をいう私に、クラクションを鳴らしてタクシーは通り過ぎていった。


下の方ではちらちら舞う粉雪も、上にくると一面を銀色に染めていた。

何故、この場所に来たいと思ったのかはわからない。

ただ広がる黄色い絨毯と、教会の映像がリフレインしたときに

この場所に行けば、恭ちゃんに逢えると思った。


確証なんてどこにもないけれど、きっと逢えると・・・

教会までの銀色の広がる道に、私の足跡

一歩ずつ、一歩ずつ、恭ちゃんへの愛を噛み締めながら歩く


そして私は、その道に恭ちゃんにだけわかる暗号を残した。

空から舞う雪に消されてしまわないように想いを込めて・・・



恭ちゃん、私を見つけて



山間の道を俺はスピードを出して上る。

日が暮れる前に、夏生を見つけたい。その想いだけが先走る。

一面の銀世界の中にある教会

あの日とはまた違う景色の中で夏生を探す。

しかし夏生の姿はない。



自分勝手な思い込みだったのかと思ったとき

雲の切れ間から光が射し、何かが反射した。

俺は、反射するものへと導かれるように走り出す。


雪の上で光輝くもの・・・。


そこには夏生が俺に宛てた暗号・・・クロスがあった。


「やっぱり、夏生はここにいる」

目の前に薄っすらと残る足跡を追うように教会へ向かい

その扉を開いた。


かすかに灯るキャンドルの暖かい色に包まれているのは・・・


「・・・夏生・・・」


俺の声に振り向く


『恭ちゃん・・・』


みるみる、瞳にたくさんの涙が溜まっていくのがわかる。

俺は急いで夏生の傍にいき、その体を抱きしめた。


「夏生・・・。心配したんやで」



『心配かけてごめんね。
 私どうしても恭ちゃんに逢いたくて・・・』


「俺に逢いたくてココに?夏生記憶が戻ったんか!」


俺の言葉に、首を横に振る。


『記憶は戻ってないよ。でもね。時々断片的な映像が見えて
 その中にこの教会があったの。私何もわからなかったけど、ココに来たら
 絶対に恭ちゃんに逢えるって思ったの。だから・・・』


「そうなんや。俺も夏生がいなくなったと聞いたときにココに
 いるんやないかって思った。確信はないけどきっとこの教会だと・・・」


俺は、さらに強く抱きしめる。


「夏生、病院に戻ろう。みんなすごく心配してる。
 手も足もこんなに冷えてるし、早く暖めんと風邪引いてしまう。なっ」


『帰らない』


「夏生、帰らなあかん。ホンマにみんな心配して探し回ってるんや。
 いつまでもこんなとこにいるわかにはいかん。さぁ、帰ろう」


『・・・帰らない。病院には帰りたくない。ここにいる。恭ちゃんと居たいの』


「夏生、我侭いうたらあかん。病院に戻ってからも俺傍にいるから
 だから帰ろう。体調も悪いんやろ、それなのにこんなとこおったら
 よけいに悪くなってしまう」


『恭ちゃん、私知ってるの・・・』


夏生の言葉に、心臓が早いリズムを刻む


「知ってるって、なんの話やねん」


『私、先生と匡さんが話してるの聞いてしまったの。
 だから自分がこの先どうなるかを知ってる・・・。
 恭ちゃんも知ってるんだよね』


「何いうとるん。夏生の聞き間違いやできっと。
 だって夏生は、ただ事故で記憶を失ってるだけやしな
 それ以上、何もあらへんで」


『隠さなくていいんだよ。
 私は自分の未来をわかったうえで、ココに居るの
 最後の一秒まで、恭ちゃんとあなたといたいから』


「ふざけんな、最後の一秒ってなんやねん。
 勝手にそんなこと決めんな。そんなこと俺がさせへん。
 夏生は、これから先の未来も俺と一緒に過ごすんや」


俺は強引に手を引き、扉へと向かおうとした。


それでも夏生は頑くなに動こうとしない。


「夏生、いいかげんに・・・」


夏生の瞳が俺を捉え

初めてみる強い意志を秘めた瞳に言葉を遮られる。



『恭ちゃん、私はどんなことがあっても帰らない。
 たとえ我侭だと言われても・・・恭ちゃんと一緒にいたいの
 お願い。今日だけは傍にいて・・・。』


俺の脳裏に、岡野さんの言葉が蘇る。


「夏生が生きたいと願う強い心が必要なんだ」

このまま無理に連れて帰っても、夏生は手術を拒むだろう。

そしたら、未来はなくなってしまう。


「夏生・・・。本当に帰らないんやな?」


『帰らない』


「わかった。それなら今日はずっと夏生の傍にいる。
 でも明日、朝になったらすぐに病院に戻るって約束して」


『・・・約束する。だから今夜は傍にいてくれる?』


俺は、夏生の頭をクシャとして


「みんな心配してるから夏生が見つかったことはちゃんと連絡しょう。
 そして・・・今夜はずっと一緒にいる。夏生の傍にずっと・・・」


『恭ちゃん、ありがとう』


空から降り注ぐ粉雪は、2人の暗号の上に舞い
誰にも見つからないようにそっと隠していった。



夏生、俺ちゃんと見つけたよ

次から次へと起こる展開に胸がドキドキです。早く結末を読みたいような、終わらせたくないような・・・・次の更新楽しみにしています。

2008.04.03 10:51 URL | はね #- [ 編集 ]

はねちゃんv-238
コメントありがとう。

怒涛の展開を繰り返して
ようやく最終話になりました。
ドキドキしてもらいながらも
はねちゃんの心に残るようなものが
ひとつでもあれば、ショコラは嬉しいです。

2008.04.03 23:47 URL | chocora #- [ 編集 ]













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